羗【キョン】について
キョンとはどんな動物なのでしょうか? なぜ大島に生息しているのでしょうか。
そして、キョンが大島にいることで起きている問題とはどんなことなのでしょう。

もともとは中国南部や台湾に生息していたキョンは、動物園などによって日本の各地に移入されました。大島では台風のときに動物園から脱走し、今では全島で生息が確認されています。
森林やヤブの中に住み、ふだんは単独またはペアか親子で行動しています。
キョンは草食性で、木の葉や果実、花びらを好んで食べます。それだけではなく、大島では農家の主要な作物(アシタバ、サツマイモなど)も食べており、キョンによる農業被害は深刻になっています。
海外が起源の外来種であり、生態系、人命・身体、農林水産業へ被害をもたらす及ぼすものあるいは及ぼす恐れがあるものとして、日本でキョンは「特定外来生物」に指定されています。

キョンは鳴き声は濁った声で、時には1時間以上鳴くこともあり、この鳴き声のためにホエジカとも呼ばれます。危険を感じたときはイヌのような鳴き声を上げることもあります。
1年を通し繁殖し、1回の出産で1頭の子どもを産みます。出産してすぐに発情できるので繁殖力が強い動物です。
朝マズメ、夕マズメに活動することが多く、朝早くや夕方、一周道路など車が走行する道に現れることもあります。

シカの一種としては小さく、ニホンジカの仲間で最も小さいヤクシカ(体高約80センチ)よりもさらに小さい動物です。体高は約40センチ程度。大人のキョンでも柴犬程度の大きさです。
メスでも8.7ヘクタールもの範囲を移動することが分かっています。ま た、出産後すぐに発情できる繁殖力の高い動物であることも、大島全域に生息するようになった理由と考えられます。

大島の主要な農産物の1つである明日葉(アシタバ)は、キョンの大好物です。キョンの食害 は農家にとって大問題です。さらに食害は大島の希少な植物であるサクユリやコクランにも及んでいます。
このため、平成19年度(2007年度)より東京都が中心となり、キョンの根絶を目指す防除作業が行われています。

図の棒グラフは年ごとのキョンの捕獲頭数を示しています。折れ線グラフは、キョンの推定生息頭数です。年ごとに捕獲頭数が増えているにも関わらず、まだ18866頭が生息していると考えられています。

明日葉(アシタバ)に与えている被害は甚大です。図は食害のあった植物の割合を示しています。圧倒的に明日葉に被害があることが分かります。

明日葉は葉と茎を食用部分とし、独特の香りと爽やかな苦 味があり、伊豆諸島では特産物としてよく食べられています。栄養価が高く、特に成分であるカルコン類(ポリフェノールの一種)やクマリン(有機化合物で芳香成分がある)が多く含まれており、食べることで健康を推進します。

特にビタミンK(血液凝固や骨の健康維持に役立つ)、カリウム(高血圧予防)の値が突出して高いことが分かります。



大島では天ぷら、おひたし、胡麻和 えなどでよく食べられています。そのほかにくるみ和えやシーチキン和えなどで食べる方も多く、これらは大島の飲食店でもよく出されるメニューです。ほかにパスタの具や魚料理のソースとして、またパウンドケーキやパンに粉にした葉を練り込んで、といった食べ方もポピュラー。どのように食べても美味しい食材です。